高松高等裁判所 昭和36年(ネ)46号 判決 1962年8月30日
控訴人(原告) 森田ツル
被控訴人(被告) 香川県教育委員会
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は当審において被控訴人を高松市教育委員会から香川県教育委員会に変更すると共に、「原判決を取消す、被控訴人が昭和二八年五月二六日控訴人の災害は公務上のものとは認めがたい旨なした認定はこれを取消す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は本案前の申立として「控訴人が被控訴人を香川県教育委員会に変更する申立はこれを却下する」との裁判を求め、変更前の被控訴人高松市教育委員会のために「本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とする」との趣旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述はそれぞれ左のとおり附加するするほか、原判決の事実摘示と同一であるから、ここに右記載を引用する。
(1) 控訴代理人の陳述。地方公務員法第四五条第一、二項、昭和二九年香川県条例第二九号職員の公務災害補償に関する条例および香川県教育委員会事務局の組織に関する規則(昭和三二年教育委員会規則第三号)によると控訴人の本件災害に関する職務権限は被控訴人にあるから、被控訴人に対し本件認定の取消を求める。なお控訴人が訴訟の相手方を誤つたことについて重大な過失はない。
(2) 被控訴代理人の陳述。地方教育行政の組織及び運営に関する法律第二三条第三号により学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事は県教育委員会の職務権限に属することになつたから本件は当然香川県教育委員会を被告としなければならなかつた。しかるに控訴人は高松市教育委員会を被告として本件訴訟を提起した。控訴代理人は法律専門家であるからこのように被告とすべき行政庁を誤つたことについて重大な過失がある。したがつて控訴人が被控訴人を香川県教育委員会に変更することは許さるべきでない。
(証拠省略)
理由
まず控訴人が訴訟の相手方たる行政庁を変更することについて判断する。地方教育行政の組織および運営に関する法律第三七条第二七条第三号附則第一条市町村立学校職員給与負担法第一条によつて高松市立鶴尾小学校教諭たる控訴人に関する人事については昭和三一年一〇月一日から香川県教育委員会の職務権限とされ、もし控訴人の本件災害が公務上のものであれば同日以降同委員会がその補償を実施することになる。しかるに控訴人が本訴繋属中昭和三二年四月二二日に高松市教育委員会を被告として右委員会がなした本件認定の取消を求める訴を提起したのは、本来香川県教育委員会を相手方にすべきであるのに既に権限を失つた高松市教育委員会を相手方とした誤りをおかしたものである。したがつて控訴人が当審においてその相手方を高松市教育委員会から香川県教育委員会に変更するのは相当の措置である。被控訴人主張のように控訴代理人が弁護士であるからということだけで控訴人の右変更が重大な過失によつて惹起されたとはいいがたい。
次に本案について考える。昭和二八年五月二六日高松市教育委員会が控訴人の主張するその災害に対して公務上のものとは認めがたいと認定したことは当事者間に争いがないところ、右認定が行政事件訴訟特例法にいう行政訴訟の対象となる行政処分に該当するかどうかについて当裁判所は原審と同様これを否定すべきものと考える。その理由は原判決の理由と同一であるからそれを引用する。
したがつて、控訴人の本訴請求は行政訴訟の対象とならない行政庁の行為を捉えてその取消を求めるものであつて爾余の点について判断をなすまでもなく不適法な訴として却下を免がれない。なお本訴は当審において被控訴人に対して新たに提起されたものであるから当裁判所が事実上第一審として審判することになる。よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 渡辺進 水上東作 石井玄)